今夜、どこで寝る

旅と踊りと酒

18歳の時に一年ニートしてたら悟りが開けて自己肯定感が降ってきた

なんにもやりたいことがなかった。
高校を卒業した年の春、正式にニートになった。働きたくもなく、学ぶ意欲もなく、家で漫画を読むだけの機械みたいになっていた。
料理は好きだったので、ご飯だけは自分で作ってた。あとは何してたかな。思い出すために当時書いてた日記をみたら、暇すぎて毎日2記事くらいアップして思いの丈をぶちまけていたようです。

 

実家が嫌いだった。いつもギスギスしていて、顔色を伺って、何かあったらすぐどこかに逃げ出せるように行き場所をたくさん作っていた。友達の家とか夜遅くまでやってる本屋とか、河原、校庭、公園、どこでもよかった。ものすごく遅く帰ってもあまり何も言われなかった。
ぼんやり留学したいなーと思っていて、英会話に1年通ったのもあって少しは英語もしゃべれるようになったし、海外で暮らしてみたいなとうっすら考えていた。実現可能かわからなくて、調べるだけ調べて、結構お金かかるんだなーとか思って心が折れそうになった。貯められるものなのか、これは。田舎でただダラけているだけでは到底無理そうだな、でも行きたいな。この家じゃないところに住みたい。ここから離れたい、できるだけ遠いところへ行きたいな。毎日毎日、何もしないけど、そんな風に考えていた。

 

お金はないけど時間だけは唸るほどあったので毎日ネットして何か書いて後の時間はゲームするかアニマックスを観ていた。攻殻機動隊とか新世紀エヴァンゲリオンの連続放送を夜中にぼんやり観ていた。
タチコマってアニメの1stシーズンはAIが個体それぞれに搭載されてるんだよね。だから「並列化させてよ〜」とか言ってケーブルみたいなのでお互いをつないでそれぞれの記憶を共有したりする。2ndシーズンからは、AIをそれぞれの個体に搭載していたことで生まれる記憶の個体差が弊害になると思った素子が、AIを衛星に搭載して、常にクラウドにバックアップしてるみたいな状況を作った。いつでも並列化できるし、これで個体差なくなるね!みたいな話だった気がする。
攻殻機動隊の世界では、体は機械になり、その体が何度変わっても、脳殻があれば、それが自分だ、それこそが自分だと証明するものなんだ、みたいな世界観。自分というものはいつも自分の中にある。自分が自分であるということの証明は、自分自身が持ち合わせてる、みたいな。それでも、時々自分が自分なのか不安になって、素子みたいにずっと同じ腕時計を大事に身につけたりするのが、なんだか人間らしくて素敵だなって思ってた。私も外部記憶装置を持ちたいと思った。
でも、この世界で、私たちはまだ生身の体で、脳みそは死ぬまで同じ体に搭載されたまま。機械の体が羨ましかった。自由に飛んだり跳ねたりビルから飛び降りれる体が。

 

今となっては生まれたことの意味は自分で決めちゃえよ、と思えるけど、この時は本当に「なぜ自分は生まれてきたんだろう」と真剣に悩んでいた。自分がこの世に生まれた・今ここにいる・生きている理由、意味をひたすら考えたり、どっかに求めたりしていた。そしてそれらを、肉親だったり友達、恋人の中に見出せないなら死ぬべきだと思っていた。本気で。意味を持たないものはこの世に存在しちゃいけないんだって。
血縁上の父と大喧嘩をし縁を切られた直後で、ああ、私は望まれて生まれてきたわけではないんだ、この人に私は愛されていない、必要とされていない。と絶望していた時だった。
夜中にアニマックスを観ていた。その日も攻殻機動隊SACを放送していた。どの回だったか忘れたけど脳殻を入れ替える描写があった気がする。
ふとした瞬間に、「あ、私、望まれて生まれたきたわけじゃないけど、それでも私の体とか考えは何も変わらずここに在るな。」と思った。
自分の核、攻殻的に言えば「ゴースト」だったり「電脳」そのものが、他人の中にあるなんてありえないのでは?私は、そこにはいないのでは、っていうか私ってここにいるのでは?私、ここにいるじゃん。今なうココ。
生命というものが私という名を付けられたその瞬間から、その存在理由や意味は自分の中に持っているものであって、誰かから定められたり誰かから生み出されたり、誰かによって否定されたり壊されたり侵害されないものなんだってこと。
もしくは誰かに、その「意味・理由」の有無をみだりに問いただされたりしない類の、性質の、最終的に自分でわからなかったり、不確定で不安定なもので良いということ。
それは自分で勝手に定めていい性質のものだってこと。
自分でどっかから見つけてきてもしくは作って、自分でそこに置いてみてていいものだってこと。そういうことか〜!って思ってそれもまた日記に書いた。
その数日後にエヴァンゲリオンTVシリーズの最終話が放送されていて、シンジくんが「僕はここにいてもいいんだ!」と高らかに叫んでいた。そう、僕はここにいてもいいんだ。マジか。それだわ。それしかないわ。っていうか「僕はここにいる」だわ。シンジ君すごいわ。同じこと今思ってたよ。思ってたよ〜!!!!と心の中で私も叫んだ。私はここにいてもいいんだ。というか、私は、ここにいる。何もしてないけど。毎日GS美神を一気読みしたりしてるだけだけど、ここにいるよ。ここにいる。おめでとうおめでとう。

状況は何も変わっていなかったがこの日を境に私は少しずつバイトをするようになった。着ぐるみに入って風船を配ったり綿菓子を作ったりホテルの宴会場でお給仕したりした。ちょっとずつだけどお金を貯めて、英語のテストを受け始めた。学校を決め、住む場所を手配し、航空券を買った。そして、留学した。
実家を離れてみたら何もかもすごくラクになって、貧乏生活で大変ではあったけど毎日すごく楽しかった、ムカつくことすら楽しくて、留学できて本当に良かったなと心から毎日思って暮らした。
あの日あの時あの場所で、毎日アニマックス見てたから、私はここにいます。ここにいるよ〜!!ありがとう、アニマックス。おめでとう私。

おわり。