今夜、どこで寝る

旅と踊りと酒

愛はすべてのドアを開く鍵/映画「シェイプ・オブ・ウォーター」感想

アカデミー賞受賞しましたねえ…。
ということでシェイプ・オブ・ウォーター見に行ってきました。
ネタバレありの感想です。

 


THE SHAPE OF WATER | Official Trailer | FOX Searchlight

 

ざっくり感想

・私たちはみんな違ってみんなマイノリティであるということを思い知らされる

この物語の主人公、イライザは話すことができない女性。耳は聞こえるけど声が出せないので手話で話しています。米国の極秘研究施設で掃除婦をしていて、仲良しは同僚の黒人女性ゼルダと、隣人でゲイの画家ジャイルズ。謎の水中生物が施設に運ばれてきたところから物語が動き始めます。
「この映画はマイノリティに焦点を当てている・ポリコレ満載の作品だ」という感想もチラホラ見かけて、確かにそう言うこともできると思った。それでいて、ではどこにマジョリティがいたのか?という疑問もある。私からしたらストリックランドですらマジョリティではない。そもそも多数派なんてこの世にいるのかな、実際のところ、という物事の大前提を自分に問いかけさせる作品だと思う。


・劇中で一番悲惨なのはストリックランド

前述の通り、ストリックランドはマジョリティではない。というか、そうなれなかった人。絵に描いたような幸せな家庭を持ち、高級車に乗り、白人男性として社会の頂点に立っているような心持ちの彼だが決して心は満たされていない。認められないことに対する不安や、そもそも「認められ」なければいけないのか、という根底に対する悲哀。愛を知りたかった人。仕事の功績や美しい妻、2人の子供、大きな家や車といった目に見える付属品抜きで、本当の意味で自分自身を愛したかった人なんだと思った。心の鍵は自分から自分への愛でしか開けられない。それをこじ開けようと他人を利用し、絶望の淵に追いやられる。もういいんだよ、もう休め…!と言ってあげたくなる人でした。しんどい。

・水中のラブシーンは今まで見た中で一番綺麗なラブシーンだった

半魚人の彼とイライザのお風呂場でのラブシーンがとても美しくて印象的だった。官能的なんだけどアートっぽさもあって、いやらしいはずなのに目が離せない。ドキドキするけどもっと見たい、そんな感じ。

・愛はすべてのドアを開く鍵

愛を知り種族を超えてドアを開いたイライザ、果敢に挑んだけれど心折れたジャイルズ、鍵穴をこじ開けようとして沈んでいったストリックランド。鍵を開けることができるのは運もある。
けれど自分の心のドアは誰しもが開けるチャンスを持っている。

・キリスト教っぽいモチーフ
キリスト教では魚=イエス・キリストのシンボル。その他にもストリックランドが聖書の一節を話したり、半魚人の彼の股間が収納式だったり(大天使は両性具有という説から?)、撃たれても復活する半魚人がイエス・キリストの復活そのものっぽかったりと何かとキリスト教的な要素が多かった。

 

 


Guillermo Del Toro talks "Pan's Labyrinth"

そのあとパンズラビリンスも見返した。

・やっぱりギレルモ・デル・トロは神話モチーフが好き

タイトルの「パンズラビリンス」のパンは、ギリシャ神話の牧神パーン。今作のスペイン語タイトルはEl laberinto del faunoでファウノの迷宮。このファウノというのはローマ神話に出てくる神様でパーンと同一視されているもの。ちなみにパーンはサトゥルスという同じくギリシャ神話の精霊とも同一視されてます。
パーン=ファウノ=サトゥルスというのは半身半獣。パーンの神話で有名なのが、テューポーンという怪物に襲われた時の逸話。あまりに慌てたので海に逃げるか山に逃げるか迷ってしまい、上半身が山羊、下半身は魚になってしまった。そこから転じて、海の底から山の頂まで全てたどり着くことができるとされている。
山羊座の神様でもあるんですが、このパーンがめっちゃ劇中山羊座っぽいんですよね…。期限やルールにうるさいところとか、何かを順番にやらせようとするところとか。
そして最後は主人公を結果的に死に誘うんだけども、ここにも神話的な暗喩がある。パーンであるところのサトゥルスは農耕の神様。そして、神様に仕える農夫、死神でもある。死にゆく人の命を鎌で刈り入れ、その魂が迷わぬよう神様のところへ連れて行ってくれる役割なのです。

・悲惨な話だと思い込んでいたけどラストは美しかった
ずいぶん昔に見たので悲惨な話だと思い込んでいたけど、見返したら思ったよりも美しくて良い映画だった。スペイン語の勉強にもなるし時たま見返そうと思います。