もう自分には何も捨てるものなんてないと思っていた。失うものは何もないから、こわくもないし痛くもない。自分1人で歩いていける。誰のことも、欲しいなんて思わない。
そう本当に思っていたのに、また、またしても、失いたくないと思ってしまった。彼女できちゃったんすよねー。
捨て鉢な、気分は野垂死に寸前、良くて西遊記、悪けりゃ死に場所を探しに行くような旅へ2ヶ月もゆくのに。すげえタイミングだ。
帰ってこれなくてもいいと思っていた。自分のことを誰も知らない場所へ行きたい。自分のことなんて忘れて欲しい。誰もかれもがわたしのことを忘れて、ゼロからまた這い上がれるかな、血まみれになっても生きていけるかなと考えていた。
でも今は、帰って来たくなってしまった。帰って来て欲しいと、思っていてほしい。
出がけに、帰ってきて、待ってるからと言ってほしいと泣きながら懇願した。私が絶対に帰ってこれるようになるはずの、解けない魔法をかけてもらった。何度も。どこの誰よりも、この世界にいる誰よりも強力な魔法をかけてくれる人だ。きっと効く。
その言葉があれば、生きて歩ける。